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杉本亜未さんの「ファンタジウム」について、考察してみました!「対決を拒否する」主人公と、「年上の女性」の存在について!


ファンタジウム(1)ファンタジウム(1)
(2013/12/20)
杉本亜未

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杉本亜未さんの「ファンタジウム」について、考察してみました!「対決を拒否する」主人公と、「年上の女性」の存在について!

最近二回にわたって書いた「ファンタジウム」の感想ですが、この作品を何度も読み返しているうちにいろいろ見えてくることがありましたので、そのことについて書いてみようと思います。

ファンタジウムは、ディスレクシア(発達性読み書き障害、難読症)で当初は学校にも行っていない中学生であるけれども、天才的な手品師の才能を持つ少年・長見良が、彼に手品を教えた北条龍五郎を祖父に持つ会社員・北条英明と出会うことによって自分が手品師として生きる道を見いだして行く物語です。

そういう意味で、これはマンガの王道パターンでもある「少年の成長物語」であるわけです。そして、「ピアの森」などと同じように、「人を喜ばせる」「幸せにする」ことに自ら熱中して行くことによってどんどんのびて行く話なのですね。

「ピアノの森」の主人公・一ノ瀬カイも、コンクールが苦手。自分の弾きたいように弾くためにコンクールの基準をはみ出してしまい、なかなか上手く行かない、という主人公なのですが、「ファンタジウム」の主人公・長見良はそれをさらに一歩進めて、「競争すること自体を拒否する」という確固としたスタンスを持っているのですね。手品は人を喜ばせるものであって、勝ち負けを決めるものではない、それは自分の中ではとても大切なものだ、というメッセージ。

少年のカイは「いつも通りに弾くため」に靴も靴下も脱いで裸足でピアノを弾いて失格になりますが、良は「火を使ってはいけない」というルールを知った上でわざと火を使ってコンクールで失格になります。そのあともKOMという手品師養成所の「競争に勝たないと意味がない」という雰囲気の中で気持ちが悪くなって倒れこんでしまったり、テレビの特番で「手品対決」のようなことを組まれたのをすっぽかしたりしているんですね。

カイは世の中の決めたルールに順応し、あるいはさせられながら、その中で自分だけのピアノを追求して行く。一方「対決」「勝負」に囚われることで一度は破滅してしまうのがライバルの雨宮修平なのですが、そういう存在は「ファンタジウム」には出てきません。(そういう存在は十把一絡げに扱われてますね)むしろ、そういう風にしむけて行く大人たちや世の中の仕組みを告発する、そういうスタンスになっていて、そこがこの物語の大きな特徴、メッセージだなと思いました。

まあ、何でも勝負勝負で、協力しながら難局を乗り越えて成長して行く、「友情・努力・勝利」の方程式にはどうしても「勝負」「対決」という要素は避けられない、というのが定番で、たとえば料理などに対しても対決を持ち込むのがマンガでは一般的になっています。

ただ最近、そういうことは馬鹿げている、と言う方向も強くなってきてはいますね。「信長のシェフ」などでも最初は中国商人と堺の商人が「闘茶」で対決していたのがケンが出てきて対決など意味がない、という方向に持って行ったり、そういうマンガでも物の分かっている大人たちは対決なんてどうでもいいんだよ、自分の中で成長して行くことの方が大事なんだよ、というメッセージを送っていることが多いのですけれども、主人公自身が「対決」を必ず拒否する、というパターンは新鮮だったように思います。

逆にそれについてそこまで頑固なのが古風で、その古風な精神が昔ながらの手品師・北条龍五郎から受け継いだ精神であり、良自身も時代錯誤的な言葉遣いをすると言う設定も、その辺りで生きてるんだなと思います。

もう一つ、大事だと思ったこと。この文章を書く前はこのことを書こうと思ったのですが、「対決を拒否する」というテーマが思ったより大きいことに書きながら気がついたので先に書いてしまいました。

それは、ヒロインのポジションに来る女性たちのことです。

この物語は主人公の長見良と「相棒」の北条英明を中心に回っていますが、実直だけど障害を持ち「人を騙す」手品に熱中する良を扱いかねている父親と、優しいけれど彼自身を理解しきれない母親という二人の魅力あるキャラクターも出てきますし、また北条がいろいろ手を尽くすことで一線級の手品の世界との関係もでき、また芸能プロダクションとの関係(大手プロの社長・黒須や敏腕で押しが強いマネージャーの岩田徹子など)などもできてきて、また一方で彼が「読み書き」という大きな壁を乗り越えるために根気よく彼に付き合ってくれる通級学級の山村先生や言語聴覚士の神村など、そういう方面との接触や訓練も描かれていて、(その他に良が子供の頃から出入りしていたサーカスや夜の世界の人間たちや、北条が勤める会社での人間関係など)実に幅広い世界が描かれているわけですが、そういうある意味「サポートされている」存在であり、学校でもいじめを受けている存在の良には、対等の立場での「ヒロイン」ポジションの女性はいません。

「友達」は手品仲間の星野や、いじめられ仲間の渡辺、良が闇の世界に迷い込みそうになっているところを救い出した五十嵐など、魅力的なメンツが何人もいるのですが。

で、ヒロインポジに来るのは、みな「年上の女性」、ということになります。

今のところ出てきているのはKOMで手品を学んでいる(た)凛とした美人の山口忍と、黒須プロに属してアクション女優を目指しながらも巨乳であることからグラビアアイドルをやっている(た)東條周(あまね)の二人ですね。まあ「源氏物語」でいえば「藤壷」のポジションというところでしょうか。(母に似ているわけではありませんが)

山口は山口百恵に似た雰囲気を持っていて、ハキハキと何でも教えてくれるお姉さん的な存在ですが、社長からは華がないと思われていて、便利に使われていることでもう手品の道を諦めようとしています。そんな山口に良は、「マジックをやめちゃダメだ!くじけそうになったって、マジックは山口さんの…そばにいるから」と言い、それで山口は救われるわけですね。結局彼女はKOMはやめますがマジックは続けて、コンテストに出て道を求めることにしたわけです。「長見くんが行ったじゃない。マジックはそばにいるって。志があればそれが私を引き上げてくれるの」と。

これは、才能もやる気もありながらなかなか正当に評価してもらえない、そういう意味での女性の等身大の部分を描いているように思いました。

また、もう一人の女性・東條周は黒須プロで売れない「クロタレ」として扱われていて荒んだ雰囲気なのですが、同じく売れない桜木・早瀬と一緒に、良がメインの番組・「ハッピーモスト」に抱き合わせで出演することになります。良は周のスッピンが好きな魚に似ていることで何となく意識してしまう、というネタなのですが、巨乳の彼女は実はメアリーポピンズが好きなファンタジーの世界も持っている女性で、番組自体もそういう夢のある方向へ進み、どんどん評判になって、雰囲気よく撮影が進んで行きます。

いろいろある中で周もバカっぽい巨乳女優という雰囲気からスマートな本来のアクションを生かした方向へ進めるようになって行くのですけれども、山口のようにリードしてくれるお姉さんという感じではないですが、後に良が窮地に追い詰められ、黒須プロを首になったときに真っ先に桜木・早瀬と一緒に助けにきてくれる、そういう頼もしさを見せています。

彼女も男社会の中で「売れそうな」方程式に当てはめられても全然自分を生かせずくすぶってしまっている、そういう女性のある種の典型として描かれているのですね。

自分に対して前向きになれなかった周を、北条の指摘でその「飢餓感」に気がついた良は、緊張するとトイレに立てこもってしまう周を、「何度も失敗したり上手くできないことがあって緊張すればお腹が痛くなったりすることもあるんだ!」とかばったり、また逆に周も良が学校でいじめられてるのを知って本気で怒ってくれたりして、良は「年も生い立ちも全然違うけど同じ心を持ってるみんなが支えてくれた。ありのままの自分でいられた」と感謝し、また周も「傷つくようなことが沢山あっても自分を見つけて突き抜ければいい」と確認し合ったりするところが印象的でした。

そういう意味で山口は「同志」、周は「共感出来る仲間」という要素が強く、一概に「年上の女の人」とばかりは言えないわけですが、でもやはり年上の女性という面もありますし、この二人の存在自体が世の中で理不尽な目に遭っている多くの女性に対するエールでもある、と思います。

そういう意味で、この二人の女性の描き方は、作者の杉本さん自信に一番近いところで描かれた部分があるのではないかな、と思いました。

良い作品は、いろいろな読み方ができると思います。ファンタジウムも、そういう作品だと思います。

また「ファンタジウム」について、思ったことがあったら書いて行きたいと思います。
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