個人的な感想です。

マンガ・アニメの感想を書いていきます。『進撃の巨人』『ぼくらのへんたい』『ランドリオール』など。

安野モヨコさんの「鼻下長紳士回顧録(びかちょうしんしかいころく)・上」を読みました。

安野モヨコさんの「鼻下長紳士回顧録(びかちょうしんしかいころく)・上」を読みました。

鼻下長紳士回顧録 上巻 (コルク)
安野モヨコ
コルク


安野モヨコさんの久々のストーリー作品。安野さんらしい、毒のある、それでいてファッショナブルな作品です。私の読んだ作品では、「脂肪という名の服を着て」を思い出させるものがありました。

舞台は20世紀初頭のパリの娼館。というと、思い出させるのは、トゥールーズ・ロートレックですね。彼がパリで活動したのは1882年から1901年なので、この設定よりは少し前ですが、そんなに雰囲気は変わらないと思います。当時のフランスは第3共和制の爛熟期。1899年には大統領のフォールが腹上死した、とも言われています。欲望の追求に極めて忠実な紳士たちと、その要求に応える娼婦たち。そのあからさまに変態的な欲望がむしろカッコ良くさえあるというのは、サド侯爵以来、フランスの伝統なのかもしれません。

安野さんのこの作品は、そのカッコ良さを余すところなく描いています。田舎から出て来た純情な娘がお針子をしながら画家志望を気取るジゴロに溺れ、客を取るようになり、ついには娼館に堕ちる。その「ありきたりな転落話」の主人公の名がコレット。どこかで聞いた名前なのですが、思い出せません・・・

出て来る紳士たちの「変態ぶり」は皆ユニーク。それぞれ、どこをどうしたら自分の欲望に最も忠実なのか、工夫を凝らしています。ストーリーの中心にあるのはコレットとジゴロでヒモのレオン、それに日本から来た作家志望の栄(さかえ)。栄に娼婦の日常を書け、と言われたコレットはバルザックやゾラの文体を借りて客や娼婦たちの様子を記録する。そして栄はその文章にやけに自分の心を踏み込んで来る者を感じ、拒絶してしまう。このあたりのストーリーが下の方にもつながって行くのだろうと思います。

しかし、上巻で一番圧倒的なのは棺桶野郎・オーギュスト・ルメールのくだりですね。この数学者は葬儀さえこの娼館で行わせる。しかし、生前コレットに言った言葉、「僕からいわせればプレイに名のつくのは変態とはいえないんだ」というのが凄い。お医者さんごっこや赤ちゃんプレイはやる人が沢山いる、つまり「普通」の欲望であって「変態」ではない、というわけです。「本当の変態とは、名付けることの出来ない欲望を抱えた人間のことを言うんだ」。

名付けることの出来ない欲望。確かに彼の求めるものは、それだけでひとつの小説になりそうなことで、とても名付けられるようなものではない。彼の葬儀でそれが炸裂し、そして娼婦たちは心から彼を悼む。彼は明らかに尊敬されてますし、こちらも感銘を受けてしまいます。

これはある種の、「オリジナリティの地獄」なのかもしれませんね。深く深く自分の性的欲望を追求するということは、ある種の表に出せない芸術のようなものなのでしょう。相手と自分との間だけに成立する一瞬の欲望の実現、快楽。こういう作品をあまり暗くならずに、でもファッショナブルに表現するのは、安野さんの独壇場だと思いました。

読む人を選ぶ部分はあるかもしれませんが、こういう方面にもそう抵抗がないという方には、おすすめだな、と思います。下巻も楽しみです。
スポンサーサイト

*Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

Menu

プロフィール

kous377

Author:kous377
FC2ブログへようこそ!

最新記事

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR