個人的な感想です。

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「キングダム」:「史実」と「物語やキャラクターの作り方」。





「コンビニ人間」の感想を別ブログに6回にわたって書いたのですが、かなり自分的には気合いの入った文章を書いたせいか、昨日はずっとマンガ「キングダム」を沈潜して読んでいました。

ものを書いてその疲れを取るのにマンガを読む、というのは悪くないパターンだと思います。特に「キングダム」のような「はまれる」マンガはそう言う時にちょうどいい感じがします。

この作品は今までのところ連載で485話、単行本で43巻まで出ていて、単行本に収録されているのが470話までなので、あと15話分が未収録ということになります。私が読み始めたのは今年の頭だったから、既刊分を読み終えて未収録分に突入したのが2月頃、それからずっとヤングジャンプを買っていますが、7月19日発売の43巻でようやく全話続けて読めるようになりました。週刊連載の作品はそういうところが不便だなと思います。

この物語の始りは紀元前245年。始皇帝が13歳で即位した翌年です。主人公の(李)信は15歳ですが、連載の現時点では紀元前238年で22歳になりました。7年経過しています。三百将だったときにライバルの蒙恬たちに出会ったのが17歳の時でそれからでもすでに5年が経過し、いまや五千将としてワンランク上がれば将軍というところになっています。考えてみれば22歳で5000人を率いる武将というのもすごいわけです。(羌瘣の3000人を加えれば8000人ですが)

歴史マンガというものは、史実を調べれば展開がわかる部分があるわけです。特に秀吉や家康の時代など、誰でも知っている時代を描く時には、周知の史実をどう描くのかというところがかなり肝になるわけですが、中国古代の歴史はそれに比べると史料が圧倒的に少なく、キングダムも多くは創作です。しかしその中でも知られている史実はあって、わからないところを「どう描いても許される」という考え方で圧倒的な創作力で描いて行く部分と、史実として有名な部分をどう再解釈して描くのかと言う二つのポイントがあるわけです。そこがふたつともこの「キングダム」という作品は成功していると思います。

主人公の李信は史実にある人物で、秦始皇帝による中国全土の統一事業のときの将軍の一人なのですが、生い立ちや家系などは全然わかっていないので、彼の「戦災孤児→下僕」という経歴は全くの創作です。ただ、彼は史記の「秦始皇本紀」に出て来るだけでなく、彼の子孫が漢の時代やその後の時代にも活躍していて、その辺りも物語と相まって考えると面白いです。

この物語はいろいろ面白いところがあるのですが、考えてみるとまず不思議なのが、主人公の信が「天下の大将軍を目指す」というところです。

それは大きな目標のように思えるが、昔の主人公だったら「天下を取る」ことを目指したでしょう。豊臣秀吉にしてもナポレオンにしてもその上には誰もいないトップを取ったから(秀吉の場合は厳密に言えば天皇がいるが)人気があるのであって、「天下の大将軍」であればその上に王がいるわけだから、その目標は最も高いとは言えません。中国では最下層から皇帝に上り詰めた例はいくつもあるわけで、その辺は不思議なのですが、目指すのが「天下の大将軍」だからこそ「中華統一を目指す秦王・政」と目標を共にできるわけで、構造的には面白いです。もちろん、「強い武将になる」というシンプルな目標を単純に表現しただけ、ということもできるわけですが。

細かいところも読んでいてあとで「そうか」と思うことが多いのですが、例えば信のライバル・蒙恬が軍師としての師の昌平君に築城の才を認められたと言う話が出て来ますが、史実で蒙恬は万里の長城を修築し匈奴の侵入を防ぎ、北の守りを固める将軍なので、読んだ時には気がつきませんでしたが、ある意味伏線になっているわけです。

またその昌平君が「秦でなく楚で立っていたら恐るべきことだった」と言われる場面がありますが、これも史実の展開を見ると実は伏線になっていわけで、なるほどなあと思わされます。

この物語の主人公は、李信だと書きましたが、本当はもう一人いるわけですね。それは後に始皇帝と称する秦王・政です。この二人の成長の物語が、この作品の主軸をなしています。中国全土を覆い尽くす壮大なビルドゥングスロマンなのですね。

史実は、この二人の成長を描くためのいわば材料の一つになっていると言えるかもしれません。政の乗り越えるべき存在として宰相・呂不韋がいます。これは史実通りですが、信にも「将軍の何たるか」を教えてくれる師と言うべき王騎という将軍がいます。この人は実際に活躍した将軍には違いないのですが、不明点が多く今まで注目されていたとは言えない人物で、この「キングダム」で信との関係から、「大将軍」というものを象徴する存在として、最も巨大で魅力的なキャラクターのひとりになったことは作者にとっても予想以上だったようです。主人公をすごい将軍にするためには、その将軍の何たるかを教えてくれた存在もまた、すごい人間でなければならない。もちろんすべてを自分で習得した人物として描くことも不可能ではありませんが、この春秋戦国という時代において先行者はいくらでもいたわけですから、その中の理想の存在として王騎は描かれるべき存在だったわけですね。

そのあとにも実にさまさまなタイプの武将が現れて来て、その個性の面白さがこの作品の大きな魅力になっているわけですが、「大将軍」と言える人物たちは皆それぞれ際立った個性を持っていて、物語の輪郭を浮き上がらせています。

師がいればライバルもいるわけで、その存在として描かれるのが蒙恬や王賁という実在の人物たちです。その二人もまた未熟だけども志は高い、オリジナルで魅力的なキャラクターたちです。蒙恬は投げやりな部分を信の影響で熱く燃え立たせ、王賁は気位の高さが信と競うことでより更なる強さになって行くところは読ませるなあと思います。この三人は三人で大業を成し遂げるわけですが、その史実から逆算してキャラクターを作り上げたのだと思います。李信、蒙恬、王賁とも生没年は未詳なので、始皇帝の生年・紀元前259年にあわせてその前後に設定したのだろうと思います。

当然ながら史書に取り上げられるエピソードの多い秦王・政には、周りに何人も重要な人物が出て来ます。呂不韋があれだけ巨大な存在に描かれたのは政が乗り越えるべき存在だから、その壁の大きさを示すためにそう描かれたわけでしょう。呂不韋は「商人としての本質」を余すところなく現しながら秦並びに六国を手玉に取り、国を牛耳りながら人生を好きなように謳歌して行きます。大変魅力的です。煌めくような「悪の魅力」だと言っていいでしょう。

この物語の圧巻の一つは加冠の儀の後に呂不韋と政の間で行われる問答です。呂不韋は商人として、文官として、経済官僚として、貨幣経済と流通により国を栄えさせると言う現代においては正論というしかない論を並べ立てます。それに対して政は、「人の本質は光だ」といい、中華を統一して戦争をなくす、という理想を述べます。読者は統一された秦が始皇帝没後間もなく崩壊し、再び戦乱常なき世に逆戻りして行くことを知っていますから、逆に言えばその論に説得力を持たせることは難しいことだったと思います。しかしそこに、「光=理想」を持ち込むことにより、倒れても死んでも失敗してもなお理想に向かって進もうとする人間の本質を描こうとしていて、逆に言えばそのためにそれまで理想に倒れた人々が描かれたのだということがわかります。

ここの部分、今書いていて作者の意図がより見えて来た感じがするのですが、現代の常識的に言えば呂不韋の「現実論」の方が強いわけで、ある意味現代が「理想なき時代」であることも浮き彫りにしているとも言えるわけです。しかしだからこそ理想は必要であり、魅力的であるとも言いいたい。政にしろ信にしろ、理想に対するこだわりははっきりとあります。

もう一つ書いておきたいのが史実の再解釈について。王弟成蟜の反乱が、実は成蟜が国王派として呂不韋と敵対していたから呂不韋によってはめられたものだ、という解釈は「光」の話につながる準備としてそうなったのだと思います。ただ踊り子の息子として生まれた政よりも身分の高い生まれだった成蟜を出すことで、宮中における政の不安定な地位を上手く表現することに成功していると思います。

しかし、一番大きな(解釈の)改変は政の母・趙姫(太后)とその愛人であった嫪毐の描写でしょう。呂不韋と政の対立は古くから描かれていたが、そこに第三勢力として太后の存在が描かれているのは新しい。この人物の境遇から、この人が現代人ならばさぞ苦悩に満ちた人生を送っただろうと想像されるわけですが、そのイメージをどんどん拡大されて形成されたのがこの「キングダム」における太后の人物像だと思います。

しかし大変意表を突かれたのがその愛人とされた嫪毐であって、普通は嫪毐自身に権力欲があったか太后との関係が露見して破れかぶれで反乱を起こしたとされているわけですが、この作品ではその反乱自体が呂不韋が政を排斥するための手段として画策されたものだとされ、嫪毐自身は小心な「心優しいバケモノ」として描かれているところです。これは今まで描かれて来なかった「太后の心の闇」を逆方面から照射するすごいアイディアだったと思うし、正直舌を巻きました。

政が加冠の儀を迎えるまでは外征もあるけれども基本的には内部対立の時代であり、連載10年かけてようやくその時代を終えて中華の統一事業に、つまり外征の時代に乗り出して行くのがこれからで、ここからは史実においても名前が出て来る将軍の戦いが多く出て来るので、それらをどう使って信や政の物語を描いて行くのか、大変興味深いです。
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